東の空の金星
「…大和さん、…オートバイに乗らないなら私にください。」

と、突然言った私を、大和さんは驚いた顔で見る。

「いらないのなら、私が乗ります。」

「シマ、あれはナナハンだから、シマには無理だよ。」

「無理じゃありません。私にください。」と真っ直ぐに大和さんを見つめる。

大和さんは大きくため息をついて、

「じゃあ、あのオートバイを起こせたら…。
大型のバイクの免許は倒れているバイクを起こせないと
取得出来ないんだよ。」

と子どもに言い聞かせるように言う。



きっかけがあれば大和さんはまた、

オートバイに乗れるようになる。



「わかりました。あのバイクを起こせたら、私にください。」

と私は微笑んで見せた。

「シマ…無理だと思うよ」と呆れたように私の顔を見つめている。



大和さん

だって、このままじゃ、ダメでしょ。

風を切って前に進まなきゃ。

仕事ばかりして、どこにも行かないで

死んだ桜子さんの思い出とだけこのまま生きていくつもり?

新しい思い出は作らないように…

そんな風に生きて行くのは



桜の花になると言った桜子さんは

そんなことは望んでないはずなんだから…。
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