東の空の金星
翌日からいつも通りの日常に戻ったけれど、

私は大和さんと交わした約束をもちろん忘れたりしてはいない。

店に配達に来る、八百屋の若者に聞いて、
大型のバイクの取り扱いと、メンテナンスができる場所を聞いて、
週末に出かける事にした。

「出かけるの?」と驚く大和さんに微笑みかけ、

私は江ノ電に乗って鎌倉駅側のバイク店に行った。


「大型のオートバイのメンテナンスと…あと、相談があるんですが…」

と、思い切って、50代くらいの大きな熊のような店主のそばに寄って、見上げてみる。

「この、オートバイを起こしたいんですけど、どうやったらできるでしょう?」

とスマホに撮った大和さんのオートバイを見せる。

店主はスマホの画面と私の顔を交互に見て、
メガネをかけ直してからもう一回見つめてから、

「これって藤原のナナハン?」と私の顔を見た。

私は驚いてうなずき、

「乗らないって言うから、もらう事にしたんです。」と呟くように言うと、

「やっぱり、乗ってなかったんだな。」と私の顔を見てため息をついた。

「で、あんた誰?藤原のオンナにしては年下過ぎるような気がするけど?」

「藤原さんのお店の『凪』でパンを焼いています。パン職人の五十嵐です。」と言うと、

「ああ、美味いパンだって聞いたことがあるな。」

「俺は山下。ここの店主で、昔は藤原のバイクもメンテナンスしてた。
大型のバイクの取扱店はそんなにないから、
ここら辺の大型バイクに乗ってる奴らは大体、顔ぐらいは知ってるな。」

と熊にしては優しい笑顔で微笑んだ。
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