東の空の金星
私は腹立たしい気持ちで、すぐに寝てしまい、

翌朝目覚めて

少しだけ、悲しい気持ちになる。

私が大和さんに未来を見て欲しいって思うには私の我儘なんだろうか。

亡くなった奥さんを忘れて欲しいんじゃない。

でも…。余計なお世話かな…



私はノロノロ着替え、控え室のドアを開けると、

大和さんがソファーで眠っていた。

また、奥さんの事を思い出して、目が覚めたのかな。

足音を立てずに近寄って、目を閉じた彫りの深い顔を見つめ、

髪をそっと撫でてみる。

「シマ。」と大和さんは目を閉じたまま声を出す。

私はビクッと、手が止まる。

「昨日は言い過ぎた。」と自分の頭に乗せられた私の手に自分の手をそっと重ねる。

「私も…感情的になってしまいました。」と静かに言うと、

「…俺はシマが大事だって思ってるんだ。」

「私も大和さんが大事です。」



…大切に思っていなければこんなに腹が立ったりはしない…。



「パンを焼きます。」

と私は大和さんの手の下からそっと手を抜き出して
キッチンに向かい、
長い間、東の空に見える金星を見つめていた。
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