東の空の金星
夏の日差しはまだ強いけれど、
朝夕涼しい海風が吹くようになった土曜日。

今日は2ヶ月の練習の成果を見せる日だ。

大和さんに買い物に一緒に行って欲しい。と嘘をついて約束を取り付けて置いたし、
(そんな事を言ったことがないのでいぶかしげに私の顔を見たけれど…)
私の味方をしてくれそうなマスターも少しだけ、付き合って欲しい。
と呼んであるし、
熊の山下さんも、オートバイを運び出すための軽トラックに若者を1人連れてくる予定だ。

正午。

店の中にマスターと山下さんが来たところに大和さんを呼び出す。

「山下さん…」と驚く大和さんに

「大和さん、私ね。あのオートバイを起こします。
だから、あのオートバイを私にください。」と言うと、

大和さんは更に驚いて、

「シマが本当に欲しいんだったら、そんな事をしなくっても、あげるよ。」

「起こせたらもらう。と約束していました。」と言って先に立って歩いていく

「シマ、おまえ、何をやってるんだ?」と大和さんが私の後ろを付いてくるのを山下さんが笑って見ている。

「いいから。」と私は振り向いて真剣な顔を見せると、山下さんとマスターと並んで下がる。

私はリモコンで駐車場を開け、

「お願いします。」と山下さんに言うと

「藤原、車出して。」と言ってからトラックに乗っていた若者に合図をする。

慌てて大和さんが家にキーを取りに戻って車を外に出すと、

ガタイの良い若者がシートの上に大和さんのオートバイをゆっくり倒してくれ、
少しだけ角度なども調整してくれる。

ちょっとしたズルは見逃してもらおう。

「シマ、無理するな…」と大和さんが呆れた顔を見せる。

「…いきます。」と私は呼吸を整え、バイクのハンドルを握る。

いつものバイクとは勝手が違う。

起こせるだろうか。

「う、りゃー!!」と叫んで渾身の力でバイクを持ち上げる。

足が少しだけ滑る。体でバイクを支えて体重をかける。

もうちょっと!
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