東の空の金星
その6。心の中にいるひと。
10月。

オートバイがピカピカになって戻ってきても
大和さんは乗る気配はない。

そう簡単に乗ろうって思えないのかもしれないけど…

私の気持ちは少しは伝わっただろうか…



空は澄んで、観光客も少なくなった。

今日は土曜日。

「ショッピングに行ってきます。」

と遅い朝ごはんを一緒にとって、

新聞を広げてコーヒーを飲んでいた大和さんに言ってから、

出かけることにする。


少し、気分転換したい。

「ああ。」

とちょっと私の顔を見て、またすぐに新聞に戻った大和さんの横顔をはそっと見つめてから
部屋に戻って出かける用意をした。

葡萄色のセーターと細身のパンツと綺麗目のデニムのジャケットを羽織り、

いつもよりくっきりしたローズピンクの口紅をつける。

最近おしゃれとは無縁だったな。

住み込みだと、朝すっぴんでパンを作っちゃうし…。

と思いながら部屋のドアを開けると、

大和さんが階段を上がるところだった。

「行ってきます。」

「ハイハイ。化粧が濃いんじゃないか?遅くなるなよ。」

と私の顔をちょっと覗いてから階段を上っていく。

…その言い方は完全に父親ですけど…

と思いながら玄関に向かった。
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