東の空の金星
私は声を出さないように、唇をかみしめる。

わかっていた。

わかっていたけど、わからないふりをしていただけだ。

涙がポツポツ床に落ちていく。



私は大和さんが好きだ。

きっと桜の花を見上げた姿を見たときから…。



お互いなにも言わずに

毎朝のように一緒に金星を見上げた。



無口だけど、表情がわかりやすくて、
時々子どもっぽくて


2度と会えないと知っていても
いつまでも愛していてる人がいて

時折不器用な愛情を私にも示してくれる。


ずっと好きだった。


その不器用な生きかたを…




教えてもらわなくてもいいよ。


大和さんの心の中には入る隙がない。

私は桜子さんを抱えたままの大和さんを好きになったけど、

大和さんは桜子さんのことしか見ていない。


でも、

大和さんが桜子さんを忘れなくても、
きっと、未来を見る事はできる。

過去だけじゃなくて。

きっと。
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