東の空の金星
自分の気持ちをとうとう自覚してしまった私は、

ここで賭けに出てしまおうと考える。



私と一緒の未来じゃなくていいから

大和さんの未来が欲しい。

桜子さんとだけ一緒にいるところから、

少しでも、抜け出して欲しい。



けっこう卑怯なやり方でだけど…

私に余計な事を教えた三島先生も道連れだ。



私は涙を拭いて、スマホを取り出して、大和さんに電話する。

「もしもし、大和さん、
今ね、偶然、三島先生に会っちゃって、
一緒にコーヒー飲んでるんです。
なんだか、このあと誘われたら、断れなさそうで…
迎えに来て欲しいの。
大和さんのオートバイで。」

と、小さな声で言ってみる。

きっと、大和さんは、嘘だって思ったよね。


そう思ったとしても、そのくだらない嘘に騙されて欲しい、

しょうがないなって私を言い訳にして、

どうしても、

あのオートバイに乗って欲しかった。


でも…


「…シマ、俺はバイクには乗らないって言ってるだろ。」


静かに言い聞かせるような返事。

やっぱり駄目か。

…私がこんなにくだらない嘘を必死についても

大和さんの心は動かない。



「…わかった。ちゃんと断って帰ります。」



と言って、電話を切った。

やっぱり駄目か。

手強いな





いつも、桜子さんの勝ちだ。

涙がいくつも頬を流れていく。




やっぱり

私じゃ
あのひとを
過去から引っ張りだすことなんて出来ないのかもしれない。
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