東の空の金星
翌朝、いつものように早く起きて、パンを作ってから部屋に戻って二度寝した。

ベッドに転がっても、なかなか眠りが訪れる様子はない。

何度も寝返りをうちながら、昨日の自分について考える。


私はお見合いの邪魔をしたい訳じゃないはずだ。

大和さんには幸せになって欲しいって思っているし、
ただ、
今回に相手の女性はこの店を無くしてしまいそうで、
…桜子さんとの思い出も大切にしてくれない気がして…
大和さんにふさわしくないって思っているだけだ。


と何度も自分に言い訳するけど、

本当にそれだけなの?

と自分に問いただす自分がいる。



お見合い相手は大人で上品で笑顔が綺麗なひとだった。
大和さんによく似合いそうだったのに…



じゃあ、私は誰なら大和さんにふさわしいって思えるの?

もしかしたら、自分の事だけ考えてるんじゃあ、ないの?

大和さんの心が、もういない桜子さんにあるのを利用して、
新しい伴侶に出会う邪魔をしているだけじゃないの?

もし、また、素敵な人にであったら、
大和さんだってきっと好きになるに違いないって
きっと私とはこのままの関係ではいられないって
そう思って、邪魔をしたかっただけじゃないの?

醜い嫉妬だ。

自分のために、大和さんの新しい出会いの邪魔をしているだけだ。

大和さんが、ひとりきりで生きているのを
喜んでいるのだろうか?

大和さんに未来を見つめて欲しかったんじゃなかったの?


自分はただのパン職人だ。

いつまでも大和さんと一緒にいられる訳じゃないのに…

16歳も年上の大和さんが私と一緒に住んでいるのは、幼い子どもに対する感情と同じ。
ほっておけないっていう、気持ちだけがあるだけだ。

恋愛対象になれるはずもない…。
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