恋人未満のルームメイト(大きな河の流れるまちで。リメイク版)
しっかりと掴んでいた私の腕を離すと、
今度は両頬をムニッとつかみ、
「おまえ、すこーしダイエットし過ぎだろ」と耳元でつぶやく。

次には、周りに聞こえる声で、
「ナナコ、非常階段のところで抱き合ったじゃん。ひでーな。忘れたの?」と楽しそうに唇の端を上げる。

きゃー、という看護師たちの黄色い声も、
「赴任早々やってくれるねー」という柳部長の呆れた声も気にせずに


「泣き虫ナナコ」と私を呼んだ。


その恥ずかしい新人の頃の呼び名を知っているこの男は、
新人の頃、非常階段の踊り場で昼休みに泣いていたのを唯一知っているこの男は

「…ピヨ… りゅう?」

「当たり」思い切り不機嫌そうに、頷いて、
「さっき、涼子さんにもそう呼ばれた。
なんだよ、ピヨって、おい」と、私の知っている情けない顔を見せた。

「だああって、ねえ」と涼子主任はぷっと吹き出し、
私に目配せする。

どう考えても、ピヨはヒヨコのぴよ。
半人前って意味のピヨでしょうよ。

と私は心のなかでつっこみ、開いた口が塞がらないのだった。
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