恋人未満のルームメイト(大きな河の流れるまちで。リメイク版)
それからの私は、お昼を持って非常階段に向かい、
ひとしきり泣いてから、おにぎりやサンドイッチを頬張るのを日課にした。

そうすると、安心して、その後の仕事に打ち込めたのだ。

夏が始まる前、6月に入った頃だったと思う、

いきなり、ピヨりゅうはやって来た。

泣き終わって、おにぎりに噛り付いたわたしに、
そっと声をかけてきた白衣の男は、
驚いてむせこむ私に、ペットボトルのウーロン茶を差し出し、
自己紹介をしたのだ。

背が高く細い体を屈めながら、
僕も時々来てもいいかなと気弱に笑った彼は、とても綺麗な笑顔で、断れなかった。

この場所を、他の人に話さないという約束をして、
それぞれにやってきて、仕事に戻ることにした。

ただ、彼は、毎日のようにやって来ていたので、
少しずつ仲良くなって、
仕事が思い通りにいかない事や、自分たちの情けなさについて話すようになり、
自分が友達にはナナコと呼ばれていることや、

彼が「俺はたつやだけど、友達にはリュウって呼ばれてる」と話して、

彼は次第にナナコちゃんと呼び、私はリュウ先生と呼んだ。

すっかり打ち解けた翌年、彼は東京の元いた大学病院に戻ることになった。


たぶんおたがいに好意のようなものはあったと思う。

けれど、自分たちののやらなければならない仕事にまだまだ恋愛をする。
という気持ちにはならなかった。

彼の最後になる勤務日に、昼休みに踊り場で会って、
缶コーヒーで乾杯し、お互い一人前になろうと誓って、

ギュッとハグして別れ別れになったのだ。


きっと、もう2度と会わないだろうと思っていて、すっかり忘れていた。

はずだったのに
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