恋人未満のルームメイト（大きな河の流れるまちで。リメイク版）

「小さいもんだ、生きられるのか？」と父親が独り言を言う。
西島先生がニッコリ頷く。
莉緒ちゃんは、ベビーに指を握られ、涙ぐんでいる。

小さな命が、目の前にあって、温かく呼吸している事実を、やっと理解したのだ。
母親もベビーの頭をずっと撫でている。

やっと、これで、この家族の始まりだ。
私は、そう感じた。

これから、この家族は困難なことに立ち向かっていかなければいけない。
莉緒ちゃんはまだ15歳で、相手の男の子もきっと同じくらいの年齢だろう。
家族同士の話し合いや、学校はどうするのか、考えれば、いくらでも、心配になる。

でも、乗り越えていって欲しい。
私は祈るように思った。

父親が私に話しかける、

「ところで、あの、体の大きい医者は、
本気で赤ん坊を引き取るつもりだったのかね？」と、聞く。

「本気だと思います。
あの人がこうしたいと口にした決心のようなものは、
口にする前に、もう、考え終わった結果なのを、私は良く知っています。
きっと、どうやったら、早く養子を迎えられるかって、
もう、誰かに相談しているのだと思います。」

「赤ん坊を手放すとは、決まっていないが、」と、父親は怒った声だ。


「申し訳ありません。でも、尾崎医師は赤ちゃんが、家族に愛されて、家族と一緒に生活できるのが一番良い事だと理解しています。
ただ、赤ちゃんにとって、万が一の選択肢を、ご家族に示したかっただけです。」と笑うと、

「変わった奴だ。あんた達は尻拭いで大変だな」と、目が笑っている。