恋人未満のルームメイト(大きな河の流れるまちで。リメイク版)
お墓の前に立つと、涙が頬を伝う。
私は花を手向け、墓石に水をかける。
冷えたビールと一緒に好きだったあられのお煎餅も供える。

墓石の横に書かれた修一の名前を指でなぞり、線香に火を付けた。

膝をついて、手を合わせ、修一に話しかける。

「久しぶり。
私は看護師の仕事に戻ることが出来そうだよ。
いつまでも、アルバイトのままじゃ、困るもんねえ。
病院の仲間も暖かく迎えてくれたの。
よかったでしょう。
体重も少し増えたから、修一の好きな二の腕のぽよぽよ少しは戻ってきてるかな…
修一、今日は報告があるの。
私、好きな人が出来た。
修一のことはまだ忘れられないけど、
リュウの事が、いちばん好きになっちゃった。
彼は、私に前を向いて生きろって、言ってくれた。
いつも、そばにいて、泣いたり笑ったりする私を、見守ってくれた。
最近は、私が必要だって、抱きしめてくれる。
…ね、好きになっちゃうでしょ。
リュウは私の作った料理を美味しいって言って、子どもみたいに笑うの。
そしてね、好きだよナナコっていうの。
…リュウのそばにいたい。
リュウの1番になりたいの。
ごめんね。修一。
私と別れてください。
これから、私はリュウと一緒に生きて行きたい。」と話した。

涙がポツポツと音を立てて石段の上に落ちる。泣き声が、強く吹いた風の音でかき消される。

『あいかわらず、奈々は泣き虫だな』

風の中で修一の声が聞こえたような気がした。
< 188 / 270 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop