恋人未満のルームメイト(大きな河の流れるまちで。リメイク版)
修一が事故で死んだ時、彼女は思い切り泣いて、
「お兄ちゃんは、勝手に旅に行って、帰ってこなくなったと思うことにする。」
と言って、その後は、お墓参りには行ったことがない。

仲の良い兄妹だったと思う。

彼女もまた、修一を忘れられないのだ。


「奈々ちゃん、鯛焼き買ってきた。一緒に食べよう」とニッコリする。私は
「友達が来てるけど、寄っていく?」と聞くと、
「お友達がいいって言ったら、寄っていく」と今日子ちゃんは静かに答える。

私はインターホンに保留音を流し、リュウを振り返る。

「修一の 妹。今日子ちゃんって言うの。彼女も内科のナースよ」
と、さらに言葉を続けようとしたけれど、
リュウはにっこりして
「桜子センセーに聞いてる。
隣に住んでいるんだろ、早く開けな、
鯛焼き冷めるぞ。
それに、俺も会いたいと思ってたところだ」と言った。

ドアを開けると、今日子ちゃんは、私を見ないで、リビングに向かった。
渡された鯛焼きはすっかり冷めていて、
チャイムを鳴らすまで、ドアの外で迷った時間を思わせた。
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