恋人未満のルームメイト(大きな河の流れるまちで。リメイク版)
到着した病院でアタフタと受け付けをしている新人保母さんは、
タクシーのなかで、中林 佳乃子(なかばやし かのこ)と名乗った。

「和菓子かな?美味しそうな名前」というと、
やっと泣き笑いの顔を見せてくれる。

すごく緊張していたのだろう。

傷を押さえたハンカチごと震えているのがわかる。

初々しくて頭をなでてあげたいと思う。

すると、事務所の奥から
「可愛い女の子を泣かせているのは、まさか、うちのナースじゃないでしょうね」
と声がして、やって来たのは

事務係長の山岸壮一郎(やまぎし そういちろう)
33歳独身。
長身、細身で、眼鏡の奥の切れ長の瞳が特徴のかなりのイケメン。
サラッとした髪をかきあげている。

ズケズケと言いたいことを言っているのに、
柔らかい声なので、解っていない女子も多いが、

とっても嫌な奴だ。
「えっと…退職願いは出しているはずなので、
うちのナースと言うわけでは…」と口ごもる私の意見を遮って、

「事務にはそんなものは届いていませんから、
あなたはまだ、『うちのナース』ですよ。
人手が足りないんですから、
いい加減遊んでいないで仕事に来てくださいね。
だいたいあなたは…」

と、まだまだ続きそうなそうなお小言にサッサと背をむけて、
山岸さんにポーッなった佳乃子ちゃんを急き立て、シュウちゃんを抱っこし、
救急外来にいそいだ。
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