恋人未満のルームメイト(大きな河の流れるまちで。リメイク版)
6月の初めの土曜日。勤務が終わり、着替えて病院を出ると、
「上川さん。」と声がかかる。救命医の菅原先生だ。
「菅原先生…」と驚くと、
「少し飲みに行かない?」と誘いの言葉。

私が返事をしないでいると、
「ルームメイトに怒られる?」と聞いてくる。
私は笑って、
「そんな事はないですよ。ルームメイトですから。」
と言うと、彼も少し笑った。

「駅前にある、飲み屋だけど、食べ物も充実してる。どうかな?」
と、もう一度誘う。

私は断る理由が見つからず、頷いた。

なんだか変な気分だ。
私は最近リュウ以外の男の人と一緒に歩いていない。
スーツにネクタイの姿の男の人も久しぶりに見た。
黙って隣を歩く。
…困ったな、何を話せばいいんだろう?
リュウといる時は今日はあったことや、
食べ物の話や、
テレビで見た出来事をお互いに教えあうのに忙しいのに…

すると
「ぼくは少し、緊張してるな」と菅原先生は私に笑いかけ、

「ぼくが、上川さんに初めて会ったのは、君が男の子を連れて、救急外来に来た日だよ。
男の子に笑いかける君を見て、いいなって思ったのが最初だ。
その後、君は救急外来で働き始めた。
君は、周りに気配りができて、仕事が良くできる。
落ち着いてて、笑顔が綺麗だ。」とストレートな褒め言葉。

「尾崎先生の事は気になったけど、
君は友達だって言った。
今でも…
ルームメイトになった今でも、その言葉は本当かな?」と言葉を切る。

私は
「大切な友人です」と正直に返事をした。

「…そっか」

と言ったまま菅原先生は黙り込んだまま前を歩く。
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