恋人未満のルームメイト(大きな河の流れるまちで。リメイク版)
リビングに戻るとリュウが私の手を掴む。

「ナナコ、…ゴメン」と目を閉じたまま小さな声で言う。

酔っ払った事?
それとも、菅原先生を連れてきた事?

「今日は酔っ払ったな。」と呟く。
「朝、担当してた患者さん亡くなった。
うーん、いつもはこんな風にならないいんだけど、…」

「患者さんのことは知ってる。
涼子先輩からメールもらってた。
リュウ、柳先生に怒られたらしいじゃない」と笑ってみる。

「うん。
朝方急変して、緊急処置になってた。
俺さ、なんで連絡してくれなかったのかって、
菅原に怒っちまってさ…
柳部長に周りのスタッフを信用しろって、説教された。
あの患者に対する急変時の処置は、
柳部長でも、菅原でも、俺でも同じことが出来るって言われてさあ、
…わかってたんだよ。
あの患者の心臓、もう、もたないかもって。
でも、家族も、俺も諦め切れなくって、さ。
だって、まだ若かったし、
小さい子どももいたんだぜ。
…それにさ、この2日少し落ち着いてた。
だから、俺、もしかしたら、助かるかもって、
少しだけ、思ったんだ…」

「リュウ、休みの日も病院行ってたもんね。
残念だったね。」と私は言って、掴まれたままの手をにそっと握り返した。

「柳部長、怒ったあと、
俺たちが頑張って稼いだ時間で、
あの患者は家族と別れを、いうことができた。
実際には、意識が戻ることはなかったけど、
温かい体温と心臓の鼓動は、きっと家族の心に残ってるって、言った。
俺もそう思いたい。
…んでさ、菅原に怒鳴って悪かったと思ってさ、
飲みに誘ったら、
アイツ、勤務時間外に仕事しても良いことはないって、説教するし、
酒にすげ〜強くてさ、
俺の方が潰されるってかんじだし、…」
< 91 / 270 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop