あの日失った想い
彼の目は本気だった。この言葉に嘘偽りはない。



「分かったわ。ねぇ、ハル。今の仁美がどうなってるか知ってる?」



「え?知らねぇけど。普通じゃないのか」




これは目が泳いでない。嘘は付いていない証拠である。




仁美はどうやら彼の前で無理をしているようだね。





「ねぇ、絵のない絵本って知ってる?」




「絵のない…なんだそれ?知らないなーどんなやつだ」





ハルが興味を持ったように私に訊いてきた。





「絵のない絵本はアンデルセンの童話なの。



それを元にして吹奏楽の曲もあるの。



それはね、若くて貧しい画家にお月様が話をしているという物語なの。」



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