あの日失った想い
新幹線で仁美に言われた曲。私は気になってすぐに調べていた。




「仁美は今その曲を練習しているんだけど、ソロが吹けなくて、悩んでいるの。



それもずーっと。いわゆるスランプ状態ってやつだよ」




ハルは静かに私の話を耳に入れていた。



自分が知らなかったことと気づけなかったことが悔しいのかな。




私は話しを続けた。彼に伝わるように、丁寧に。


「絵のない絵本の物語でね、月は“自分が話していることをそのまま絵に描いて”と画家を導くの。





だから、ハルは月になってあげて。





月になって、ずっと悩んでいる仁美を導いて、思いをきちんと伝えて。





私も何度も助けようとした。でも、無理だった。




彼女を救えるのはあなたしかいないのよ」



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