あの日失った想い
私はその先の言葉は言えなかった。


だって、今、私は彼の温もりに包まれているから。


「郁、麻……………?」


「由佳里すまねぇ。修学旅行のときも昨日も」


彼の突然の言動に私は戸惑うしかなかった。


「お前のこと何も考えていなかった。

由佳里、俺もお前と同じ。

自分が傷つくのが嫌な故にとった行動がお前を傷つけることだった」


郁麻に抱きしめられているため、彼の表情はうかがえなかった。


彼の心臓の音が聴こえる。彼の清潔そうな香りが鼻につく。

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