あの日失った想い
「ごめん。やっぱり思い出せない。」
「…そう」


私は一言しか返すことが出来なかった。

自分で訊いたのに。しかし、彼の言葉にはまだ続きがあった。


「必ず思い出す。お前のこと。そんなに真剣な目で見られたら、俺だけが忘れてるなんて、なんかやだ。約束するよ」

ちゃんと彼に今の私の気持ちが伝わったのだ。


「ふふっ……えへへ」

何だか胸が温かくなってきた。妙にこそばゆい。そんな感覚。


私は立ち上がった。そして、少し郁麻から距離を離し、彼に向かって微笑んだ。


「郁麻!パス!」

< 43 / 282 >

この作品をシェア

pagetop