あの日失った想い
……ん?郁麻?私、その名前知ってる。


私は七瀬くんが駆け寄って行った男の子に目を移した。



「何言ってるの?俺、待ち合わせの場所で30分も待ってたんだけど?」


機嫌悪そうに言いながら、今の今まで読書をしていた男の子は顔を上げた。



整いすぎた顔立ち。
何も飾らない自然体の容姿の彼。



大袈裟すぎるかもしれないけど、
“容姿端麗”と言う言葉は、彼のためだけにあるのだろうと思う。



「まじかー!すまねぇー」


ケラケラと笑い混じりに話す七瀬くんの言葉は、急すぎる出来事により、動揺している私の耳には全く聞こえなかった。

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