三月の雪は、きみの嘘
直接的じゃなくても、ふたりがまとう雰囲気や会話の奥にひそんでいる嫌悪感を、多感な時期の私が気づかないわけがない。

だけど私は、ニコニコと気づかないフリばかりしていた。

私まで暗くなったら、本当にふたりは終わってしまう、と思っていたのかもしれない。


『うちの両親、すっごい仲良しでさ。見てて気持ち悪くなるくらい』


そんなウソを友達の前で言うのも平気になっていた。

そしてウソはウソを呼び、いつしか頭の中にある家族と現実の境界線は太くなっていった。

『文香が高校を卒業するまでは努力しましょう』

『ああ、わかっている』

そんなふうに、ふたりが夜遅くに話していたのは、たしか高校受験のころだった。

自分を離婚しない理由にされているのは複雑だったけれど、『高校を卒業するまではなんとか家族としていられるなら、その間に考えも変わるかもしれない』と、どこか気楽にかまえていた。

ううん、変わると信じていた。


うまくいってないことを決してだれにも言ってはいけない。

そう自分に課したのを覚えている。真実を口にしてしまったら、ふたりは本当に壊れてしまうという予感があったから。



それなのに、お父さんの転勤先が北海道になると決まってから離婚まではあっという間だった。
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