三月の雪は、きみの嘘
ふたりは努力することをあきらめたんだと思った。

それに関して、今のところ『悲しい』という感情は起きていない。

たぶん私はウソをつく自分に疲れていたんだろう。

むしろ、これで正直に友達にも話せると、安堵すらしていた。


それなのに、私は未だにだれにもこのことを言えていない。


両親の話が出るたびにウソばかりついてしまっている。

ため息と同時に、始業を知らせるチャイムが鳴った。

ざわざわとした音がだんだん静まり、先生の登場とともに教科書をめくる音に変わってゆく。

黒板のほうを見ると、一番前の席に座る女の子の黒髪ロングが目に止まった。

今のクラスには、小学一年生のときに同じクラスだった子もいる。

ツインテールがトレードマークだったノンちゃんは、今ではロングの黒髪を下ろして、すっかり女子力を上げているし、いじめっ子だった公孝くんも、眉の手入れをしっかりしている“今どき男子”に成長していた。

十年の年月がこんなにも人を変えてしまうものなのか、と驚くけれど、実は私は未だふたりに話しかけられていない。

顔を見てすぐに気づいた私とは対照的に、自己紹介をしてもふたりはなんの反応も示さなかった。

ひょっとして、名字が変わったから気づいていないのかもしれない。


だけど、名字が変わった理由を説明しなければならないかと思うと、話しかけられずにいた。
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