三月の雪は、きみの嘘
「熊切さん」

離婚のタイミングで変わった、お母さんの旧姓である名字で呼ばれた。


いい加減、慣れなくちゃ。


「はい?」

今度は間を置かずにすぐに顔を上げると、また学級委員が私の横にモジモジとした様子で立っていた。

さっきは短い会話だったので気づかなかったけれど、三つ編みを指でさわりながら私を見てくる彼女はかわいかった。

彼女は慌てたように私の手元を指さして言った。

「いつもパンなんだね」

「あ、うん」
笑顔を作って、うなずいた。

手元に視線を落とすと、スーパーの値引きシールが貼ったままの菓子パンが、かじられた跡をのぞかせている。

だけど、次に彼女が口にした「お弁当じゃないんだ?」の言葉に笑顔が消えそうになり、なんとか意識して表情をキープした。


「そうなんだよね」


肯定してうなずいた私だったけれど……。


「お母さんはお弁当を作りたがるんだけど、パンのほうが好きなの」


なんの躊躇もなく、続けてウソを話しだしていた。
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