三月の雪は、きみの嘘
顔を動かさないようにそーっと右前に視線を送ると、声の主は、今朝から何度か目が合っていた男子生徒だった。

一瞬だけ目が合ったかと思えば、向こうからプイと顔を逸らされた。

かったるそうに頬杖をつくと、もうこっちを見ることもなく、サンドイッチを口に放り込んでいる。

黒い髪が、窓からの風に揺れていた。

鋭い目はそのまま、黒板のほうをにらみつけているように見えた。


……今、ひょっとして助けてくれたの? 


それにしてはそっけない態度だけど。

「あれ……」

思わず出た言葉に、すぐさまうつむいた。

だれも気づいてないと確認するまで数秒固まってから、もう一度彼の姿を確認する。

さらさらと小さく泳ぐ髪。

まっすぐ前を見つめる瞳。

どこかで見たような錯覚にドキンと胸が鳴った。

だれかに似ている、とかではなく、前から知っている人のような気がしてくる。

小学校の友達かとも思ったけれど、思い当たる顔がない。

さっき『拓海』と呼ばれていたけれど、その名前に覚えはない。

パンを少しずつ口に入れながら考えるけれど、思い出せそうで思い出せない。


つい気になって、ちらちらと観察してしまう。
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