三月の雪は、きみの嘘

春は、好きじゃない。

お花見や入学式、それに新生活……。

希望あふれる季節なのに、昔から嫌いなのは、“引っ越し”と“転校”が思い出の大半を占めているから。

父親が俗に言う『転勤族』という不運のもとに生まれた私。

小学一年生から高校二年生の今日まで、何度も転校を繰り返している。

それでも昔は、転校生は珍しがられてクラスの主役になれたものだけれど、学年が上がるほどに思春期がジャマして、打ち解けるのが大変になっていた。

高校生になってからは、さすがに転校はないと思ってたんだけどな……。

友達とお花見に行く約束もかなわないまま、転校生として教室に座っている。

今日も、教室の窓から見慣れない景色をぼんやり見ているだけ。


晴れた空には、雲がひとつ。


校庭の端っこにある桜の大木は、もうすっかりその花を落としてしまって、わずかな染みのようにピンク色が引っついて揺れている。

だれもが、もう桜の木であることすら忘れているように見える。

「なんとなく私と似てるな……」

頬杖をついてつぶやいてみるけれど、それはすぐに、教室を満たす雑音に埋もれてしまう。


あの桜の木と私。


どちらも素通りされている毎日は一緒かもしれない。
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