三月の雪は、きみの嘘
それでも、なんとなく後ろめたくて、彼から視線を外してうつむいた。

しばらくして、なにげなく先ほどの男子生徒に目をやると、だるそうに足を投げ出して机に頬をつけて寝ていた。

改めて見ると、目を閉じている彼はきれいな顔立ちをしている。

大きな体に似合わないふわっとした細い黒髪に、ぽかんと口を開けた寝顔は愛らしくもある。

端正な顔立ちは思わず見とれてしまうほどのイケメンだった。

こんなに近くの席なのに、今まで彼の存在すら気づかなかったなんて不思議。

でも、それくらい、この一週間は緊張していたってことなのかも。


……それにしても、さっきの視線は痛かった。まるで私に怒っているようにも思えたな。


無防備な顔で眠りの世界にいる、名前も知らない男子を見ていたけれど……。

「なにやってんのよ」

自分を戒めて、もう一度窓の外に視線を戻す。

遠くに、去年オープンしたという大型ショッピングモールのピンク色の屋根が見えている。


「十年前はなかったな……」


ショッピングモールだけでなく、幼いころの町並みの記憶とはずいぶん変わってしまっている。
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