三月の雪は、きみの嘘
実は、担任の山田先生しか知らないことだけれど、小学一年生で転校するまで、私はここ、浜松の町で生まれ育った。

引っ越してきたアパートも、昔住んでいた家のすぐそばだった。

とはいえ、なつかしさに、ときおり思い出すことはあっても、もう戻ることはないと思っていた。


だけど、人生は思いもよらない展開ばかりするものだ。


両親の離婚が決定的になったのは、数カ月前のクリスマス。

離婚することを説明するお母さん、隣でふてくされたみたいに黙っているお父さん。

ケーキを囲む年でもないけれど、あの日の重いムードは、この先のクリスマスのイメージを確実に悪くした気がする。

それから私は、なじみのないお母さんの旧姓を与えられ、気づけばお母さんの生まれ故郷である浜松市にふたりで帰ることが決まっていた。

まさかこんな形でこの町に戻ってくることになるなんて予想もしていなかった。

今思えば、去年の秋ごろから家の中にはこれまでにないピリピリした空気が漂っていた。

転勤のたびにストレスを抱えていたお父さんと、慣れない土地に苦労していたお母さんは、いつからか口を開けばケンカばかりで、引っ越しをするごとにどんどん仲が悪くなっていくようだった。


それでも私の前では仲良さそうにしていたけれど、とうの昔からふたりがうまくいってないことはわかっていた。
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