マドンナは社長秘書室勤務


それに気付いてくれた田神社長が動く。


「やめろ」


きゃあああああ!と、うおおおおおおお!と、パーティー会場のボルテージは上がり一気に騒がしくなった。


「……っ」


やめろと言った田神社長に肩を引かれた私は田神社長の胸に顔を押し付けられているような形になったからだ。

実際は押し付けられたというよりも、身体を反対させられたという方が正しいのかもしれないけれど、あまりの近さに今にも目眩を起こしそうになった私を繋ぎ止めたのは口紅の存在。


「……っ、口紅が」

「構わない」


構わないわけがない。

動揺しないわけがない。

田神社長が着ているのはウン十万ウン百万の、そんな世界の品物に微かにでも口紅をつけてしまっては秘書室勤務として許されない。


「失礼します」


震える手で会社が支給してくれた私のお給料の何倍もする鞄からハンカチを取り出す。

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