マドンナは社長秘書室勤務
ぐいっと引っ張られた事により足がもつれ、そのまますぽんと田神社長の胸元に飛び込むという形になってしまい、ありがとうございますを言える状況ではなくなった。
どうして引っ張られたの?とか、どうして田神社長の胸元にいるの?と思う中でも冷静な自分はいて、あのパーティーの時のようにまた田神社長のスーツに口紅がついてしまったとも思う。
でもそれはちょっぴり余裕があるから出来た事。
「榛原…」
囁くように、息を吐き出すように、耳元で聞こえた田神社長の声によってちょっぴりあったはずの余裕が消え去ってしまった。
私の腕を引っ張った手。
田神社長の香水の香り。
どちらのものか分からない心臓の音。
耳にかかった息。
生々しい全てのそれらに、
「……っ」
息が、乱れた。