マドンナは社長秘書室勤務
ビックリしたあまり私は余程酷い顔をしていたのだろう。
「そんなに嫌だったか?」
勘違いした田神社長はそう言って乱れ知らずの自身の前髪に手をやった。
「田神社長が思ったより近くにいらっしゃったのに驚いてしまって」
「俺が榛原に近付くのは駄目か?」
「駄目ってわけではないです、けど」
「けど何だ?怖いか」
嘘つく理由も意味も見付からない。
小さく頷く私に田神社長はふぅと息を吐き出した。
「怖がらせるつもりはない」
「はい…」
「ただ、一週間も榛原を見ていなかったから」
ーー少し近くで見たい、榛原を。
消えてしまいそうな小さな声だったけれど私の耳にはハッキリと届いた。
そして届いた瞬間に反応したのだ。
ドクン、胸が鳴る。
「駄目か?」
「恥ずかしいです」
「嫌ではないのか?」
「はい。多分、ですけど」