王様と黒猫
艶やかな髪はぼさぼさ、白い肌はどろどろ。綺麗な薄い水色だったドレスも無残に泥に汚れ、枝に引っ掛けて所々破けていた。

かろうじて黒宝石の瞳と紅い小さな唇はそのままだったが。


「…………これが、本当の自分でございます」


そのドレスの裾をぎゅっと握り締め、恥ずかしそうに顔を赤くして俯きながらそう答えた。


………………だ、だめだ!

もう我慢できない!


今まで堪えてきたものが弾けたように、声を上げて笑ってしまった。込み上げて来る可笑しさが、止まらない。


面白過ぎる!


じゃじゃ馬を隠して、国王の俺と御会食をしようとしていたご令嬢。

腹の皮がよじれそうなくらい笑っていると、シオンはそんな俺を、ぽかんとした顔で見ていた。




やっと笑いが収まり、よくよく話を聞いてみる。

どうやらシオンはその度の過ぎた快活な性格ゆえ、ご令嬢たる為の荒療治として御会食に送り込まれたらしい。元よりそんな気は無かった彼女は、適当な理由をつけてぼろが出る前に帰ろうと企んでいた。

しかし俺が大幅に寝坊したのと、この黒猫の騒ぎ。

そのお陰で、取り繕っていた彼女の化けの皮が剥がれてしまったのだ。


にゃー、と今度は黒猫は彼女に擦り寄った。いつから木の上にいたのか知らないが、腹を空かせているのかもしれない。

その黒猫を抱き上げながら、シオンに聞いた。


「この猫、俺が飼ってもいいか?」

「――――え?」




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