王様と黒猫
ジェイクは入り口のドアで立ち止まる。


「私はここで待っています」


しかしこんな夜更けに、雪も降っている。外になんていたら凍えてしまうぞと言うと、ジェイクは何処からか小さな瓶を取りだした。


「一人で雪見酒、というのもたまには悪くないでしょう」


いつの間に酒なんか用意していたのだろうか。でもまあ、お陰であいつが凍死するのでは、という心配はなくなった。


少しどきどきしながらノックをしたが、返事は無かった。入り口のドアを開けると、そこには明かりだけが灯っており、誰の姿も無かった。

ぐるりと見回すとその奥の部屋に、人の気配が感じられる。近づいて、声を掛けた。


「アシュリー、いるのか?」


暫くの沈黙。

やがてドアへ近づく足音と共に、彼女の声が聞こえてきた。


「はい、どなたですか?」

「……俺だ」


ドアが少しだけ開けられ、様子を伺っているようだった。その隙間に顔を出してやると、彼女と目が合った。


「――――! まさか、アレックス陛下?!」


よほど驚いたのだろう、叫ぶような声でそう言いながら、ドアを勢いよく開いた。

ドアの向こうには、懐かしい姿があった。多少大人びた顔になってはいたが、あの頃の面影は残っている。


「ど、どうして陛下がここに?! しかもこんな時間に……!」

「外でジェイクが待ってる……俺が来たら、迷惑か?」


アシュリーは少し考えると、兄がするようなよく似たあきれたような溜め息を吐いた。そしてやっと部屋の中へ入れてくれた。

コートを脱ぐと彼女は当たり前のようにそれを受け取り、ぱたぱたと付いていた雪を払い落とす。濡れてしまったそれが乾くようにとストーブの傍に掛けてくれた。




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