王様と黒猫
そんな几帳面な、それでいて気の利いた動作は、昔と変わっていない。

俺が促されてソファに腰掛けると、彼女は部屋の角で今度はお茶か何かを入れ始めた。どうやら家にはアシュリーの結婚相手はいないみたいだった。夫である奴はいつも仕事が忙しいらしいと、ジェイクから聞いていた。


「突然来られるなんて、何か急用でもあったんですか? 陛下」


背を向けてお茶を入れながらそう聞いてきたが、その口調は幼馴染にではなく、国王としての俺に対しての事務的な感じだった。

何だかそれが、酷く気に入らない。


「アシュリー、お前まで陛下はやめてくれ」


今夜は幼馴染に戻りたかった。

せっかくの再会なのだから。


しかしアシュリーはティーカップの載ったトレイを手に振り向くと、ばかばかしいという口調でそれを拒否する。


「陛下は、陛下です。他の呼び方は私には出来ません」


やれやれ、融通の利かない所も変わっていない。溜め息を吐き、目の前に置かれた紅茶を一口飲んだ。


「でも本当に、どうして急に来られたんですか?」


アシュリーはやっと前のソファに座ると、確認するようにそう言った。


どうして、逢いに来たのだろう?

ジェイクに言われたからだろうか、それとも他に理由があっただろうか。


改めてそう問いかけられると、自分でもどうしてアシュリーに逢いに来たのかわからなかった。

今度は彼女が、自分で入れた紅茶に口を付けた。


「……猫を飼い始めたんだ」

「猫、ですか?」

「ああ、黒猫だ」




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