王様と黒猫
その話を聞いたのは、早朝――――

――――と言っても太陽は既に天高く。部屋の掃除をするメイドは仕事が滞ると言って煩い古株メイドに泣きついていたのを、半分寝ぼけながらベッドで聞いていた。

だから、世間的にそれ程早い時間ではなかったのかもしれない。

しかし俺は眠かったのだ。そして、疲れていた。

昨日は頭の固いご老人たちに、ぐだぐだとお説教まがいの会議を長引かせられ。会う奴会う奴、議論をしたがる。果ては通りすがった入り口の門番にまで愚痴を聞かされる始末だった。

それが俺の仕事だと言えば何の否定も出来ない。


ああ、国王なんてなるもんじゃない。


前国王が崩御(ほうぎょ)し、血生臭い世継ぎ争いがあった。数年に渡る国を揺るがすような壮絶な争いの火花は、あろうことか俺にまで飛び火した。

王位継承権はあるが、最後尾の第七番目。その頃まだ二十歳だった俺は、まさかこの国の王になるなんて予想もしていなかった。

あれよあれよという間に玉座に据えられた俺は、その後右も左も分からない『国王様』という仕事に翻弄される事になってしまった。

家の者も誰も俺が国王になるなんて思っていなかったから、天真爛漫に育てられてしまった俺は、十年経った今でもヒイヒイ言いながら玉座に座っている。

他に誰も座ってくれないのだから仕方ない。

王族の色に全く染まっていない俺は、いつの間にか皆に『うつけ者の王様』と影で呼ばれているのは知ってる。

それでも、引き受けてしまったからには毎日頑張っているんだ。だから、今日の多少の寝坊は多めに見てもらいたい所だった。




< 2 / 75 >

この作品をシェア

pagetop