王様と黒猫
朝日が憎らしいくらい燦々(さんさん)と差し込んでいる自室にノックもなしに入ってきた執事は、無言のまま閉ざされたカーテンを開け放った。まだ寝ていたかったが、ここで起きないと後々もっとめんどくさい事になる。仕方が無いので、寝ぼけた身体を起こすことにした。


「おはようございます、アレックス陛下」


城の生き字引と言われている老齢の執事の声には、もうちっとも早くない、という嫌味が簡単に読み取れた。しかしわざとそれに気づかないフリをして、あくびを一つしてやると、執事の顔が歪んだのがわかった。


「アレックス陛下、今日が何の日か、覚えておいでですか?」


――――今日?


その言葉に何の事を言っているのか、起き抜けでまだ回らない頭を動かしてみる。

俺の誕生日でも無いし、親の命日でも無い。誰かと何か約束をしていたか、とも思ったが、それならそいつが直接やってくるはずだろう。会議は昨日終わったし、取り留めて緊急を要する案件も無い。

全然思い当たらず、今度は俺が顔を歪めた。

見かねた執事がため息を吐いた。


「何だ? 今日、何があるんだ?」


降参だ。全く、何も、思い出せない。

執事は俺のその返事に、また嫌味な深いため息を吐いた。


「やはりお忘れになられたんですね。今日は、ネルソン公爵家のご令嬢様との御会食でございます」


そう言いながら執事は、ずっと手に持っていた上質紙で作られたファイルを手渡してきた。受け取り開いてみると、そこには恥ずかしそうにこちらを向いて笑みを湛えた女性の写真が挟み込まれていた。


ああ、そうだった。

そういえば二週間ほど前、そんな話を聞いた気がする。





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