王様と黒猫
外から吹き込む風に乗って部屋のカーテンがゆらゆらと揺れる。窓の外は太陽が輝き、広がる青空。

こんな日は仕事なんてしたくない。

だから今自分が自室のベッドで横になっている事を、喜ぶべきなんだろうか?

横になっているベッドの足元に丸くなって寝ている黒猫シオンが、にゃーと鳴きながらあくびをしていた。


人間の方の御令嬢シオンとのお友達大作戦は思いのほか上手くいった。あのマヌケな告白は、幸いな事に彼女に変な警戒心を作らずに済んだらしい。

ジェイクの奴に経緯を話したら盛大に笑われてしまったが……


「お友達から、ね…ククク……」

「むかつく奴だな、ジェイク! 仕方ないだろう、他に言葉が思いつかなかったんだ!」

「いえいえ、微笑ましくて結構じゃないですか。三十歳の中年と十八歳の令嬢の交際にしては…ククク……」

「そう言いながら、笑うな!」


とにかくシオンはそれから、時間の許す限り頻繁に城へ遊びに来るようになった。

初めの何度かの訪問は大人しくお茶を飲んだりお菓子を食べたり。ごく普通に談笑していたのだが、相手はあのじゃじゃ馬令嬢だ。

何でも好きにしていいと言うと、本当かと何度も確認を取った後にまたとんでもない事を始めた。


「ひと目見た時から、やりたいと思っていたんです!」


そう言いながら中庭にある一番大きな木に、またドレスを捲り上げて登ってしまったのだ。残されたのは、脱ぎ捨てられたシオンの靴と俺と黒猫のシオン。


やれやれ、本当に彼女はこの黒猫によく似ている。


しかし今回は彼女も学習したらしい。足も手も滑らすことなく慎重に地面へ降り立つことが出来た。




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