王様と黒猫
――――問題はその後だ。
中庭にある噴水で汚れた足を洗っていたシオンと、いつの間にか水遊びが始まってしまったのだ。
大人気ないとは自分でも思ったが、久しぶりの水遊びに夢中になってしまった。水をかけたりかけられたり、そんな単純で懐かしい遊びの記憶が、いつの間にか自分の年齢を忘れさせる。
陽だまりの中、二人とも夢中になって水をかけ合って笑っていた。
メイドがその様子に気が付いて慌ててタオルを持ってきた頃には、俺もシオンも頭から水が滴り落ちるくらいずぶ濡れだった。
「……全く、いい年をして子どもみたいな事をするからです」
「うるさいぞ、ジェイク! それにどうしてお前がこの部屋にいるんだ。お前なんて呼んでない。俺は医者を呼んだんだ!」
「そうでしたか? ではどうして私の執務室に陛下から『薬を持って来い』という言伝が届いたんでしょうね?」
「……国王が水遊びで風邪を引いたなんて、他の奴に言えるか!」
体力には自信があった。
しかし最近は連日の会議やら公務やらで疲れていたのだ。それに、そうまで激務にして時間を作っていたのは、シオンに逢う為でもあった。
こうして風邪を引いて寝込んでしまっては、その労力は報われなかったというべきか。
「――――陛下、僭越(せんえつ)ながらお耳に入れておきたいことが……」
「ん? いきなり何だ?」
ジェイクはいつになく真面目な顔をしてそんな事を言い出した。こいつがこういう顔をする時は、大抵ろくな話じゃない。
ジェイクは風邪薬と解熱剤を取り分けて袋に詰める。奴はそれをサイドテーブルの水差しの隣に置いて、やっとその『せんえつ』な事を話し始めた。
「実は、黒猫嬢との事が城内でもかなり噂になっています」