王様と黒猫
当然だろう。
この俺が、連日怒涛のように仕事を片付けて彼女と逢う時間を作っているのだ。自分で言うのも何だが、噂にならないほうがおかしい。
「……それが何か問題か?」
「自覚がないのも困ったものですね」
「なんだよ! 言いたい事があるのなら、はっきり言え!」
そのあまりにも遠まわしな物言いに、熱があるのも忘れ思わず起き上がってしまった。頭はガンガンとしているが、ジェイクの言うその噂というものへ興味のほうが勝っていた。
「――――噂は徐々に拡大して、陛下が御婚姻するのではないか、という事まで囁かれているのですよ」
「……は?」
その言葉の意味が熱に浮かされた脳へ達するのには少しばかり時間がかかった。
――――婚姻? 俺が?!
「は! あっはっはっはっ! なんだよそれ! いくらなんでも飛躍しすぎだろ!」
全く平和なものだ、俺の国は。
そんなゴシップ好きな三流記者が好んで流しそうな噂に、騒ぎ立てているなんて。おかしくて腹がよじれるくらい笑うと、酸欠でまた熱のある頭が酷く痛んだ。
さっきジェイクが飲ませた薬は本当に効果があるのだろうか。
「陛下――――笑い事ではありません」
「だから、何がだ。そんな噂放っておけ! いずれ消えてなくなる」
「今回はそんな簡単な事ではないようです。実際、陛下と黒猫嬢の仲睦ましい逢瀬は何人もに目撃されています。そのような裏付けから、噂は真実味を帯びて拡大しているようです」