王様と黒猫
沈黙が続く中、何処からか黒猫のシオンがやってきて、人間の方のシオンに擦り寄った。彼女がそんな黒猫の喉元を何度か撫でてやると、気持ちよさそうにその喉を鳴らした。


「私は………………」


シオンは黒猫を撫でるのを止めると、何かを決心したように顔を上げて俺と目を合わせた。


「私は陛下の事を、信じていられる、と思います」

「……!」


自分から聞いたくせに、シオンのその素直な言葉に驚いてしまった。真っ直ぐに、俺の心まで貫くその言葉に。


「それは……国王様だからとか、そんな事ではなくて、えっと……なんて言ったらいいのかわかりませんが……」


耳まで赤くなってそう言うシオンの傍へ近寄って、目の前に屈んでその頭を撫でた。さらさらとした彼女の漆黒の髪が、手に心地いい。


「シオン、わかった……ありがとう」




何かが、変わる気がした。


ずっと心の奥で淀んでいた何かが。この真っ直ぐな彼女によってきらきらとしたものに変わってゆく気配を感じていた。


「シオン、お前はもう、ここへは来るな」

「え……?!」

「城へは来るな。だが、俺を信じていろ」


シオンはわけがわからないという不安そうな表情を見せたが、それも一瞬だった。俺と目を合わせると、少し悲しそうな、でも安心したような笑みを浮かべた。




「はい、私はアレックス陛下を信じます」




彼女は静かにそう呟くと、また傍に寄ってきた黒猫シオンの喉を撫で始めた。気持ちのよさそうなその黒猫の様子に、俺も自然と顔がほころんでいた。















◇◇◇




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