王様と黒猫
「シオンをここから遠ざけたのは、彼女に及ぶ悪意での万が一を考えたからだ」
「ふむ」
「調査をしたのはその広がり度合いを確認して、沈静する時間を見極める為だ」
「ほう」
少し苛々しながらそう言って奴を見ると、やはりその目は笑っていた。憎たらしくも楽しげな笑顔で。
「まだ他に質問はあるのか?」
「いえいえ、結構です。よくわかりましたから。……やっと動く気になられたんですね」
ジェイクは今度は先程からとは違う、静かな口調でそう言った。その顔は珍しく真面目だったので、好意的に取ってもそう悪い事ではないだろう。
しかし俺はその言葉を否定した。
「いや、動きはしない」
ここで動くつもりは無かったのだ。
――――まだ、今のところは……
ジェイクは含みのある笑みを浮かべると無言で一礼し、そのまま私室を出て行ってしまった。
◇