王様と黒猫
いつもならそこで俺は、訳がわからなくても謝罪するのだが。やはり今日は苛々して気が立っていたのだろう。


彼女の気持ちなんて考えもせずに、更に酷い言葉を重ねてしまった。


「おいおい、シオン。こんなの俺に食わせて、腹でも壊させる気なのか?」


ほんの少しの軽い気持ちだった。

いつものくだらない軽口で、シオンは赤い顔をして頬を膨らませ、拗ねたそれをとりなす。そして二人で笑い合えば、苛々している俺の気持ちも少しは晴れるだろう、そう思っていた。


しかしシオンは泣き出しそうな目で俺を見つめたまま、無言で何も返してこなかった。


その後はもう散々な有様で……彼女は結局何も言わないうちに、逃げるように正体不明の物体が入った箱を持って帰ってしまったのだ。





「――――なるほど。それで今日は陛下の様子がおかしかったのですね」

「……そうだ。気になって仕事もできない」


話し終えると俺はまた頭を抱えた。ジェイクはそんな俺の様子を見ながらやれやれ、と溜め息を吐いた。


「それでその、未確認物体は食べたのですか?」

「いや、シオンが持って帰ってしまったから……結局あれがなんだったのか分からなかった」


ジェイクは仰々しく腕を組みながらしばらく考えていた。


「推測するにそれは……黒猫嬢が初めて作った、ケーキか何かだったのではないでしょうか」


――――そうか! そうかもしれない!


焦げ臭かったのはスポンジを焼きすぎたからで、上にかかっていた白いのは作りきれていない生クリーム。散りばめられていたのはたぶん、乱雑に切られた果物か何かだったのだろう。




< 64 / 75 >

この作品をシェア

pagetop