王様と黒猫


「………」

「……………」


お互い言葉が出ない。

謝ろうとは思っていた。しかしいざ本人を前にすると、何も言えなくなってしまう。

彼女も同じ気持ちなのかもしれない。

じっと俯きあって、時間だけが過ぎて行く。





「――――シオン」


このまま、お互いがぐだぐだと考え込んでいるのは嫌だと思った。それでは何も解決しない。

俺は彼女の名を呼ぶのと同時に、手を取り部屋を出た。

少し強引に引っ張りながら移動する。その間もやはりお互い何も言葉は交わさなかった。





しばらくして目的地へ到着した。

そこはシオンと初めて逢った、中庭のよく見えるガーデンテラス。

外はやはり雨が降っていて、その中庭はよく見えない。二人で中庭に面した大きな窓を眺めながら、俺はやっと彼女の手を離した。

ただ雨の音だけが聞こえる。

彼女の顔は見なかった。

見てしまうとまた、言葉に詰まってしまいそうだったから。彼女もこちらを向こうとはしなかった。

二人でじっと雨の降る中庭を見ていた。

ザーザーという雨の降る音、ぱらぱらと木の葉に当たる水。雨が周りの音を吸収してしまうのか、他には何も聞こえない程静かだ。


「なあ、シオン」


口からやっと出た言葉は、静かなガーデンテラスに驚くほど響く。名を呼んだ時、ふっとこちらを意識したシオンの息づかいが聞こえた気がした。




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