王様と黒猫
少しここで庭でも眺めようか、と提案するとご令嬢は恥ずかしそうにゆっくりと頷く。さっき彼女がしていたように、噴水の縁に二人で腰掛ける。
「すまないが、名前を教えてくれないか?」
執事は『ネルソン侯爵家』とは言っていたが、名前は教えてくれていなかった。俺がそう尋ねると、彼女は恥ずかしそうに頬を少し染めた。
「シオン……シオン・ネルソンと申します」
――――シオン
いい響きの名だ。
始めは目の保養程度に思っていたこの『ごかいしょく』も、彼女についてもっと知りたいという好奇心がいつの間にか胸の中で顔を出していた。
元々美しいものは嫌いじゃない。
「シオンは年は幾つだ?」
「今年十八に……」
シオンはそう言いながら視線をまた空へ向けた。
会話が止まってしまうくらい空が好きなのか、そう思った瞬間。彼女はさっきからのおしとやかな振る舞いからは想像も出来ないような大きな声を上げた。
「ああっ! やっぱり!!」
「な、なんだ?! どうしたんだ?!」
シオンは叫び声と共に立ち上がり、木の上を指差した。その方向を同じように立ち上がって見てみると、高い木の上に黒い何かが見え隠れしている。
「さっきちらっと見えたんです! 猫! 黒猫が! 気のせいじゃなかった……きっと登って降りられなくなったんだわ!」
ああ、それで彼女はしきりに上を気にしていたのか。
しかし、どうしたものか。
いくら田舎育ちで運動神経も自信のある俺でも、あそこまで高い位置には登れない。黒猫のいるその木は上の方が細くなっているので、自分の体格では木そのものをへし折ってしまうだろう。
「すまないが、名前を教えてくれないか?」
執事は『ネルソン侯爵家』とは言っていたが、名前は教えてくれていなかった。俺がそう尋ねると、彼女は恥ずかしそうに頬を少し染めた。
「シオン……シオン・ネルソンと申します」
――――シオン
いい響きの名だ。
始めは目の保養程度に思っていたこの『ごかいしょく』も、彼女についてもっと知りたいという好奇心がいつの間にか胸の中で顔を出していた。
元々美しいものは嫌いじゃない。
「シオンは年は幾つだ?」
「今年十八に……」
シオンはそう言いながら視線をまた空へ向けた。
会話が止まってしまうくらい空が好きなのか、そう思った瞬間。彼女はさっきからのおしとやかな振る舞いからは想像も出来ないような大きな声を上げた。
「ああっ! やっぱり!!」
「な、なんだ?! どうしたんだ?!」
シオンは叫び声と共に立ち上がり、木の上を指差した。その方向を同じように立ち上がって見てみると、高い木の上に黒い何かが見え隠れしている。
「さっきちらっと見えたんです! 猫! 黒猫が! 気のせいじゃなかった……きっと登って降りられなくなったんだわ!」
ああ、それで彼女はしきりに上を気にしていたのか。
しかし、どうしたものか。
いくら田舎育ちで運動神経も自信のある俺でも、あそこまで高い位置には登れない。黒猫のいるその木は上の方が細くなっているので、自分の体格では木そのものをへし折ってしまうだろう。