王様と黒猫
最後の一つ。その言葉に瓶の中を覗くと、確かにイチゴミルクのピンク色をした飴はもう何処にも無かった。


「それは残念でした。でもこれであきらめがついたでしょう?」


少し可哀想な事をしたかなと思いつつも、両手を握り締めて悔しさに震えている彼女を、口の中で飴を転がしながら見ていた。

不謹慎だが陛下が毎日彼女をからかいたくなる気持ちも分からなくは無い。

騎士団の任務には常に冷静に対応する彼女だが、こういう時には素が出るのだろう。ちょっとつつくだけですぐむきになる。赤くなったり青くなったり、笑ったり怒ったりするころころと変わる表情が可愛らしいと思う。

こんな事をソフィアに言えば、ますます機嫌を損ねるだろうが。





「――――ジェイク」




ぼんやりとそんな事を考えていると、不意に彼女が私を呼んだ。

その声に反応する前にすばやい動きで彼女に胸ぐらを両手で掴まれ引っ張られる。突然の事に一瞬体勢を崩すと、口元に柔らかい物がぶつかった。




――――ソフィアの唇




柔らかく温かい感触と、彼女の口の中に残っていた甘い息が私を侵食する。ソフィアはそのまま自分の舌を私の口内へねじ込み、中にあったイチゴミルクを絡め取っていった。

すぐに唇と手を離されたが、あまりの事に呆然と彼女を見る。


「イチゴミルク、食べたから仕事に戻ります、師団長殿」


そう言って満足そうに微笑むと、奪い取ったイチゴミルクを口の中で転がしながら彼女は部屋を後にした。




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