身代わりペット
どうやら聞かれてなかったみたいだ。

(う~ん。金銭感覚だけ、付いて行けないなぁ)

庶民の私には付いて行けない感覚だった。

火事になる前、一人でアパートにいた頃はタイムセール目がけて買い物していたし、夜に割引になっているお惣菜を買ったりしていた私とは金銭感覚が少しズレている様だった。

(結婚して長く一緒に居たら、こう言うのって慣れる感覚なんだろうか?)

そう思って、またハッとする。

(だから、なんで結婚する体で考えてるんだ私は!)

頭をブンブンと振ったら、課長が小さく「わっ!」と言った。

「悪い、痛かったか?」

課長が私の頭をさすっている。

「いえ、こちらこそすみません。急に頭を振ったりして」

「いや。傷付けたとかじゃないんだな?」

「はい。大丈夫です」

なら良かった。と言って、また私の髪を櫛で梳き始めた。

私は、気付かれない様に小さく息を吐いた。

離れるなら今の内の様な気がする。

これ以上一緒にいたら、自分が傷付くだけの様な気がしてならない。

課長は火事で宿無しの私を仕方なく置いてやっているだけ。

それを私は脳内で勝手に変換しているだけ。

会社でも、夕飯の事(食材調達の有無)とか、洗濯の事(色分け注意)とか、不意に口にしない様に神経を研ぎ澄ましている。

それ位、私の中ではこれが日常になりつつあった。

(一か月も一緒に居ればそうなっちゃうよね。でもそれも段々しんどくなって来たし、離れる事も辛くなりそうだし、そろそろ次に住む部屋、見付けないとな……)

私はもう一度、小さく息を吐いた。

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