身代わりペット
「上手く行ったら臨時収入なんだから、気合入れろよ!」

「えー。そしたら何買おっかなー!目ぇ付けてたヘルメスのバッグ、あれ買っちゃおっかなー?」

「おう!なんでも買ってやるよ」

「わーい!」

キャッキャしながらバカ2人が話しているのを聞いて、アタシの腹わたは煮えくり返っていた。

今にでも胸ぐら掴んで引っ叩いてやりたいけど、ここはグッと抑えた。

本当に実行するかどうかも分からないし、冗談でした、と言われてしまえばそれまでだ。

(だからこれは、念の為……)

アタシは携帯をギュッと握る。

「あ、もうこんな時間だよぉ!映画始まっちゃう!」

「お、ヤベ!行こうぜ!」

そう言ってバタバタと二人はお店を出て行く。

アタシは顔を見られない様にサッとメニュー表を開き、顔を隠した。

「お待たせしました。ランチのAです。……三嶋さん?」

国枝さんがアタシの顔を見て、眉を寄せている。

「どうしたんですか?顔色悪いですよ?あ、氷、多かったですか?」

アタシが飲み干したアイスコーヒーのグラスを指さしてあたふたしている。

国枝さんはアタシが氷を好んで食べる、と思っているらしく、いつも冷たい飲み物には氷を多めに入れてくれていた。

それが多過ぎて体が冷えた、と思っているのだろう。

でも、それは要らぬ心配だ。

大げさでもなんでもなく、今のアタシの体温は確実に2度くらいは上がっているはずだから。

「……ううん。なんでもないの。氷も多くなかったし、もう少し多くても問題なかったわ」

一呼吸置いてアタシが微笑むと、国枝さんもホッとしたのか

「あ、じゃあお冷に氷を多めに入れてお持ちしますか?」

と、空になったお冷のグラスを持ち上げて言った。

「ええ、ありがとう。貰えるかしら」

「はい」

国枝さんが小走りにカウンターの奥に走って行く。

多分、アタシの顔は凄い事になっていたと思う。

奥歯を噛みしめていたから、もしかしたら青筋くらい出ていたかもしれない。

アタシは掌で一度顔を覆い、深呼吸をした。

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