身代わりペット
国枝さんが氷をなみなみと入れたお冷を持って戻って来たので、笑顔でありがとう、と言うと、国枝さんもごゆっくりどうぞと笑顔を残してまたカウンターに戻って行った。

アタシはその氷を勢いに任せてバリバリと噛み砕く。

このクセっていつから付いたクセだっただろう?

もちろんそうじゃない時も氷を食べているんだけど、特にイライラしている時に氷をガリガリ噛み砕くと、なんだかすごくスッキリして、それがいつの間にか氷があると噛み砕く、と言うクセになってしまった。

無心に氷をガリガリ噛み砕き、最後の一個になる頃には気持ちも大分落ち着いて来た。

はぁ、と一つ息を吐き、ランチを食べ始める。

テーブルの上に置いてあった携帯に手を伸ばし、画面をタップしてオンにする。

画面下に表示されている四角のボタンを押して、オフに戻し、そのままバッグに閉まった。

「さ、これでゆっくり食べられる」

ふいにグラスに目をやると、残り一個の氷が寂しそうにこちらを見ている。

その氷を口に含んで、コロコロと口の中で転がし、溶かして飲み込んだ。
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