身代わりペット
新井麗子はばっちりキメッキメの服装をしているのに、相手は地味で目立たない服装。

全体を黒やカーキでまとめていて、ハンチングを深々と被っている。

なんだか気になってジーっと見ていた私の視線に気が付いたのか、新井麗子が一瞬こちらを見て、あっ!と言う顔をして私から視線を思いっきりそらした。

(ん?なんか、思いっきり気まずそうな顔をされたけど……。あ、もしやっ!?)

私は見てはいけない現場を目撃してしまったのだろうか!?

(え、まさか……不倫!?)

会社内で有名な新井麗子さん。

魔性の女と呼ばれていて、その毒牙に掛かった男は星の数と言われている。

あの男性もその一人なんだろうか?

だから相手は地味で目立たない格好をしているのかな?

でも、見られて気まずそうにする位だったら、もう少し人気の少ないお店にすればいいのに。

「中条?どうした?」

動揺してその場から動けないでいる私を不審に思ったのか、課長が怪訝な顔でこちらを見ている。

「いえっ!なんでもありません!」

課長がこちらへ向かって来そうになったので、私は慌てて駆け寄った。

「行きましょうか!」

「あ、ああ……」

私は課長の腕を引っ張りお店から遠ざかる。

(今見た事は言わない方が良いよね。多分……)

自分が盛大な勘違いをしている事に気が付かず、気を利かせたつもりで今日の事は私の胸の中に秘めておこう、と勝手に誓った。

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