身代わりペット
「紗月」

「え?」

不意に真剣な声で千歳に名前を呼ばれて、もう一度横に振り向いた。

「やっぱりフラれた?」

「……は?」

「だって、アンタ今日一日そんな感じよ?ため息ばっかりついて浮かない顔して。やっぱダメだったか?あ、でも課長は何ともなさ気だったな……どういう事?」

千歳は、私が課長にフラれて落ち込んでいる、と思ったらしい。

「いや、昨日あれから色々あって、告白出来なかったんだよね」

「色々って?」

「うん。ちょっと……」

昨日の一件は千歳には話してないから、なんとなくお茶を濁す。

「紗月」

もう一度名前を呼ばれて千歳を見ると、ちょっと怒っている様な顔をしている。

「千歳……?」

「なにかあったね?」

千歳の鋭い眼光に、一瞬たじろぐ。

話してないけど、勘の良い千歳にバレるのは時間の問題だと思っていた。

まあ、私の態度でもバレバレだったとは思うけど……でもこうもあっさりとバレるとは。

「なにかったら真っ先に知らせろ、って言ったよね?」

「…………」

私は何も答えられずに押し黙る。

「紗月」

千歳の、子供に言い聞かせる様な口調に「隠し通せないか……」と観念し、私は全てを打ち明けようと口を開いた。

< 164 / 193 >

この作品をシェア

pagetop